「大きな地震が来たら、世田谷はどうなるのだろう。」
防災について考えるとき、まず知っておきたいのが、世田谷区でどのような被害が想定されているのかです。
地震の被害は、建物が壊れることだけではありません。
火災が起きる。
水道や電気が止まる。
自宅で暮らせなくなる。
避難所に多くの人が集まる。
エレベーターが止まり、マンションの上層階まで移動しにくくなる。
こうしたことが、同じ地域の中で同時に起こる可能性があります。
今回は、世田谷区が公表している被害想定を確認しながら、「その数字を地域防災にどうつなげて考えるか」を整理します。
世田谷区が想定している大地震とは
世田谷区では、複数の大地震について被害が想定されています。
その中でも、区への影響が相対的に最も大きいものとして、「都心南部直下地震」を防災対策の前提としています。
想定されている地震の規模はマグニチュード7.3です。
さらに、被害が大きくなりやすい「冬の夕方18時、風速8メートル毎秒」という条件を基本に、災害への対応が考えられています。

この条件では、世田谷区内の約69%で震度6強、約31%で震度6弱、わずかな区域で震度7になると想定されています。

ここで大切なのは、この数字が「実際に必ずこうなる」という予測ではないことです。
被害想定とは、一定の条件を置いて「このような地震が起きた場合、どの程度の被害になる可能性があるか」を計算したものです。
しかし、防災対策を考えるための重要な出発点になります。
世田谷区全体では、どのくらいの被害が想定されているのか
都心南部直下地震が「冬の夕方18時、風速8メートル毎秒」の条件で発生した場合、世田谷区では次のような被害が想定されています。
| 項目 | 世田谷区の被害想定 |
|---|---|
| 死者 | 645人 |
| 負傷者 | 7,132人 |
| うち重傷者 | 1,212人 |
| 全壊・焼失建物 | 25,757棟 |
| 避難者 | 252,337人 |
| 帰宅困難者 | 116,697人 |
| 停止する可能性のあるエレベーター | 1,267台 |

また、ライフラインについても、上水道の断水率23.2%、電力の停電率18.9%などが想定されています。

25万人を超える「避難者」という数字を見ると、どうしても「25万人が避難所へ行く」と思ってしまいそうです。
しかし、そうではありません。
区の想定では、避難所で生活する人は、発災1日後で約15万1千人、4日後から1週間後では約16万8千人、1か月後では約5万2千人と見込まれています。
つまり、大地震の後には、
「避難所で生活する人」
だけではなく、
「自宅にとどまりながら支援を必要とする人」
「親族や知人宅などに避難する人」
など、さまざまな避難生活が生まれることになります。
この点は、今後のシリーズで在宅避難や避難所について改めて取り上げます。

「25万人」という数字を、どう考えるか
被害想定を見るとき、私は「数字が大きい」というところだけで終わらせないことが大切だと考えています。
例えば避難者25万2,337人という数字。
この数字が示しているのは、単に避難所を増やせばよいという話ではありません。
食料や水をどう届けるのか。
トイレをどう確保するのか。
高齢者や障害のある方など、支援が必要な人をどう把握するのか。
自宅で生活を続ける人に、情報や物資をどう届けるのか。
そして行政の支援が十分に届くまで、地域でどのように助け合うのか。
一つの数字の後ろに、さまざまな課題があります。
世田谷区の地域防災計画も、区民自身の備えだけでなく、地域による助け合いや、行政・事業者などとの連携を防災対策の重要な柱としています。
自分や家族で備えることを「自助」、近所や地域で助け合うことを「共助」、行政などによる支援を「公助」と呼びます。
大規模な災害では、この三つのどれか一つだけで対応することは難しいと考えます。
同じ世田谷区でも、地域によって条件は違う
もう一つ重要なのは、「世田谷区全体の数字」だけでは地域の姿までは分からないことです。
世田谷区は広く、住宅の種類、道路の幅、人口構成、マンションの多さなども地域によって違います。
例えば、下馬・野沢などを含む下馬地区の地区防災計画では、令和6年度の資料として、人口4万2,869人、世帯数2万3,688世帯、高齢者率21.1%、細街路率29.9%などの地域特性が整理されています。
さらに、同地区の被害想定では、
全壊300棟、
半壊822棟、
全焼583棟、
死者26人、
負傷者284人
とされています。もちろん、これらも実際の被害ではなく、一定の条件に基づく想定値です。

内閣府も、地域の防災計画を考える際には、人口構成、土地利用、市街地の特徴など、それぞれの地域特性を踏まえることが重要だとしています。
だからこそ、防災は「世田谷区全体」で考えるだけでは十分ではありません。
町会・自治会、小学校区、マンションなど、もう少し身近な単位でも考える必要があります。

被害想定を「怖い数字」で終わらせない
被害想定には、大きな数字が並びます。
しかし、私はこれを不安をあおるための数字にしてはいけないと思っています。
大切なのは、
「どんな被害が想定されているのか」
を知ったうえで、
「その被害を少しでも小さくするために、今から何ができるか」
を考えることです。
世田谷区は、2030年度までに首都直下地震などによる人的・物的被害を「概ね半減」することを減災目標として掲げています。さらに、避難所の管理運営、地区・地域防災力、在宅避難、防災DX、物資供給などを重点テーマとして対策を進めています。
「減災」とは、災害そのものをなくすのではなく、災害が起きたときの被害をできるだけ小さくする考え方です。
この目標を実現するためには、行政の取組だけでなく、地域や住民の備えも必要になります。
一方で、「地域で助け合ってください」と住民側だけに責任を寄せることも適切ではありません。
地域でできること、行政が担うべきこと、民間事業者や専門機関と連携することを、あらかじめ整理しておく必要があります。
吉永しんいちの考察
被害想定を見て、私が特に重要だと考えるのは、「区全体の防災」と「身近な地域の防災」をつなぐことです。
区全体では25万人を超える避難者が想定されています。
しかし、実際に災害が起きたとき、一人ひとりが最初に向き合うのは、自宅の建物、隣近所、町会・自治会、マンション、近くの学校や避難所といった身近な場所です。
そのため、今後は大きく三つの視点が必要だと考えます。
第一に、地域ごとの災害リスクや人口、住宅事情を分かりやすく見えるようにすることです。
第二に、町会・自治会だけでなく、マンション管理組合、学校、福祉関係者、事業者などが一緒に地域防災を考えられる仕組みを広げることです。
第三に、避難所に来た人だけではなく、自宅などで避難生活を続ける人にも、情報や物資、必要な支援が届く仕組みを整えることです。
防災を「一人ひとりが自分で備える話」だけにも、「行政が何とかしてくれる話」だけにもしない。
地域と行政が、それぞれの役割を確認しながら支え合える仕組みにしていくことが必要だと考えています。
このシリーズで考えていきます
今回から「地域から考える 世田谷の防災」というシリーズで、世田谷区の防災について考えていきます。
公的な計画や数字だけを紹介するのではなく、地域で実際に行われている活動ともつなぎながら、
「災害が起きたとき、私たちの暮らしはどうなるのか」
「地域でできることは何か」
「行政にはどのような仕組みが必要なのか」
を一つずつ考えていきます。
次回は、地震発生後の「72時間」を取り上げます。
大きな地震が起きた直後、行政、地域、住民はそれぞれどのように動くのか。そして、72時間を過ぎた後も続く避難生活を、どのように支えていくのかを考えます。
参考資料・出典
・世田谷区「世田谷区災害対策強化プラン」
・世田谷区「世田谷区地域防災計画[令和7年修正]」
・世田谷区「世田谷区地域防災計画本編①【震災編】」
・「下馬地区防災計画[令和7年修正]」
・内閣府「地区防災計画ガイドブック」
※掲載している被害人数・建物被害等は、一定の地震・時間帯・気象条件に基づく「被害想定」です。実際に発生した被害を示す数字ではありません。
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